2021年1月11日 14. 「老人」 小説『レイト・サマー』第7章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 7 そのとき、部屋の内線用電話機が鳴った。 「もしもし、金崎ですが」と冷静に戻った博士が電話に出た。「…分りました。彼を連れてすぐに向かいます」 博士の話の内容からすると、私に呼び出しがかかったらしい。 「桐野…
2021年1月11日 13. 「予言、ふたたび」 小説『レイト・サマー』第6章 -あるオートガイネフィリアの物語- 6 この場には男と我々のみが残された。 「申し訳ありませんでした。不快な思いをさせて」と男が私に言った。 男は、細身のシャツとネクタイの上に白衣を着た、科学者然とした白髪の紳士だった。顔立ちは西洋人のように彫りが深…
2021年1月11日 12. 「危機」 小説『レイト・サマー』第5章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 長い廊下を歩いてゆくと、リーダーが言っていたエレベータに行きついた。そして、そのすぐ手前に白い壁に囲まれた人気のない休憩室があった。ここには窓はないものの、照明により明るく照らされ、後ろめたい陰湿さとは無縁のように思え…
2021年1月11日 11. 「氷の裸体たち」 小説『レイト・サマー』第5章(中編)-あるオートガイネフィリアの物語- 私は、懐中電灯で先を照らしながら、ケーブル類が走るのと平行に天井裏の狭い空間を這いだした。女の子が私の後に続いた。 空間はひんやりとした空気に包まれていた。空気は微かにカビの臭いがした。辺りはしんと静まり返っていた。…
2021年1月11日 10. 「脱出」 小説『レイト・サマー』第5章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 5 私と女の子は備品庫のような地下室にいた。さほど広くない室内にスチール棚が整然と配置されており、棚の上は段ボールや薬品が入ったポリタンクがぎっしりと並べられていた。 私は、その一角の壁にむき出しになった鉄骨の柱に…
2021年1月11日 9. 「地の底より現れし者たち」 小説『レイト・サマー』第4章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 「こっちよ。早く」 私がクリニックに着くや否や、娘はエントランスから顔を覗かせながら手招きして私を呼んだ。 私は待合室の奥の診察室へ案内された。 診察室の中は、雑然としていた。娘が言うとおり、めちゃくちゃだった。机…
2021年1月11日 8. 「異変」 小説『レイト・サマー』第4章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 4 ひまわりクリニックから帰った後、ビールを飲みながら夕飯のパスタを茹でていた。缶詰のミートソースを乗せたパスタとサラダで簡単に済ませるつもりであった。夏の暑さで食が細くなった私にはこの程度の食事がちょうどよかった…
2021年1月11日 7. 「予言」 小説『レイト・サマー』第3章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 現実の日々は、私のごく個人的な出来事とは関係なく過ぎていった。私は、麻里子と出会う前のように、職場で淡々と仕事をこなし、帰宅し、眠る日々を過ごした。そして、時折、彼女のことを思った。彼女がいたずらなことを言うときの、そ…
2021年1月11日 6. 「喪失」 小説『レイト・サマー』第3章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 3 翌日になっても、あのクリニックでの出来事が頭を離れなかった。あれは夢だったのか、現実だったのか?その区別も私の中ではひどく曖昧だった。 私は夢遊病者のようにふわふわとした感覚の中に居た。仕事はまるで手につかず…
2021年1月11日 5. 「麻里子」 小説『レイト・サマー』第2章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 目を開けると、夜の空気に包まれていた。 私はどこかの部屋のベッドで横になっているらしかった。部屋といっても、さっきまでいた診察室ではなかった。どこかの寝室に居るようだった。私は目だけで辺りを見回してみた。シェード付き…