2021年1月11日 16. 「帰還」 小説『レイト・サマー』第8章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 8 老人のボディーガードは無言のまま、施設の玄関まで私を導いた。そして、すぐさま主のもとに帰っていった。 私は玄関に一人取り残された。いつまでもここにいても仕方がなかった。私は外に出ることにした。 自動ドアを出る…
2021年1月11日 15. 「神の意志」 小説『レイト・サマー』第7章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- この場所には、老人と私だけが残された。 この状況から察して、この老人は次に私を殺すに違いなかった。そう考えると全身に緊張感が漲った。体が小刻みに震えているのが自分でも分った。私は、突然に死の淵に投げ出されてしまったの…
2021年1月11日 14. 「老人」 小説『レイト・サマー』第7章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 7 そのとき、部屋の内線用電話機が鳴った。 「もしもし、金崎ですが」と冷静に戻った博士が電話に出た。「…分りました。彼を連れてすぐに向かいます」 博士の話の内容からすると、私に呼び出しがかかったらしい。 「桐野…
2021年1月11日 13. 「予言、ふたたび」 小説『レイト・サマー』第6章 -あるオートガイネフィリアの物語- 6 この場には男と我々のみが残された。 「申し訳ありませんでした。不快な思いをさせて」と男が私に言った。 男は、細身のシャツとネクタイの上に白衣を着た、科学者然とした白髪の紳士だった。顔立ちは西洋人のように彫りが深…
2021年1月11日 12. 「危機」 小説『レイト・サマー』第5章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 長い廊下を歩いてゆくと、リーダーが言っていたエレベータに行きついた。そして、そのすぐ手前に白い壁に囲まれた人気のない休憩室があった。ここには窓はないものの、照明により明るく照らされ、後ろめたい陰湿さとは無縁のように思え…
2021年1月11日 11. 「氷の裸体たち」 小説『レイト・サマー』第5章(中編)-あるオートガイネフィリアの物語- 私は、懐中電灯で先を照らしながら、ケーブル類が走るのと平行に天井裏の狭い空間を這いだした。女の子が私の後に続いた。 空間はひんやりとした空気に包まれていた。空気は微かにカビの臭いがした。辺りはしんと静まり返っていた。…
2021年1月11日 10. 「脱出」 小説『レイト・サマー』第5章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 5 私と女の子は備品庫のような地下室にいた。さほど広くない室内にスチール棚が整然と配置されており、棚の上は段ボールや薬品が入ったポリタンクがぎっしりと並べられていた。 私は、その一角の壁にむき出しになった鉄骨の柱に…
2021年1月11日 9. 「地の底より現れし者たち」 小説『レイト・サマー』第4章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 「こっちよ。早く」 私がクリニックに着くや否や、娘はエントランスから顔を覗かせながら手招きして私を呼んだ。 私は待合室の奥の診察室へ案内された。 診察室の中は、雑然としていた。娘が言うとおり、めちゃくちゃだった。机…
2021年1月11日 8. 「異変」 小説『レイト・サマー』第4章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 4 ひまわりクリニックから帰った後、ビールを飲みながら夕飯のパスタを茹でていた。缶詰のミートソースを乗せたパスタとサラダで簡単に済ませるつもりであった。夏の暑さで食が細くなった私にはこの程度の食事がちょうどよかった…
2021年1月11日 7. 「予言」 小説『レイト・サマー』第3章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 現実の日々は、私のごく個人的な出来事とは関係なく過ぎていった。私は、麻里子と出会う前のように、職場で淡々と仕事をこなし、帰宅し、眠る日々を過ごした。そして、時折、彼女のことを思った。彼女がいたずらなことを言うときの、そ…