2021年1月11日 24. 「光のなかへ」 小説『レイト・サマー』第11章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 私は我に返った。さっきまで何か考えごとをしていたようだった。 多くの営業社員が出払った午後のオフィスは静まり返っていた。エアコンの風を受けて震えるブラインドと、目の前の女子社員がパソコンのキーボードを打つ音だけがかす…
2021年1月11日 23. 「再会」 小説『レイト・サマー』第11章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 11 海の底で誰かが呼ぶ声が聞こえたような気がした。意識が鮮明になるにつれて、その声は大きくなっていった。 「ねえ、吉彦。目を覚まして」と誰かが私に話かけていた。 私はゆっくりと目を開けた。すると、目の前には見慣れた…
2021年1月11日 22. 「廃墟」 小説『レイト・サマー』第10章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 我々はリュックサックを背負って目的地に向かい歩き始めた。 私は一郎さんに先導してもらい、その後に続いた。彼が言っていたとおり、少し戻ったところから登山道が伸びていた。我々は森の中へと登山道を進んだ。先ほどまでの道とは…
2021年1月11日 21. 「世界の終わる場所へ」 小説『レイト・サマー』第10章(中編)-あるオートガイネフィリアの物語- 私にとっては晴れの旅たちとも言ってよかったが、天気について言えば、それとは裏腹であった。空は重々しい雲に覆われ、昼前にもかかわらず夕方のような薄暗さであった。安全のために車のフォグランプをつけなければならないほどであっ…
2021年1月11日 20. 「故郷」 小説『レイト・サマー』第10章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 10 二日後、私は早朝の飛行機で福岡に向かった。無論、それは麻里子と再び出会うためだった。 福岡空港の国内線ターミナルから外に出ると、湿気を多分に含んだ生暖かい空気が私を包んだ。空は重々しい雲に覆われており、いつ…
2021年1月11日 19. 「雨の石畳」 小説『レイト・サマー』第9章 -あるオートガイネフィリアの物語- 9 私のなすべきことは明確だった。麻里子を失ったあの場所へ帰ること、そして、麻里子と再び一つになること、それだけだった。この「世界」に実存する「あの場所」へ戻ったとしても、麻里子に会える保証は全くなかったが、私の直…
2021年1月11日 18. 「記憶の中の少女」 小説『レイト・サマー』第8章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- 私はいつもの少女が現れる夢を見た。 しかし、今回見た夢は普段とまるで違うものだった。何かを象徴するような具体的な物語らしきものが感じられたし、感覚の明晰さはこれまでと一線を画すものだった。正確には、これは夏木医師が見せ…
2021年1月11日 17. 「モノクローム・シティ」 小説『レイト・サマー』第8章(中編)-あるオートガイネフィリアの物語- 私は家に帰る気がしなかったので、少し街を歩くことにした。 夜が始まろうとするとする街の喧騒の中で、行き交う人たちがそれぞれの理由でそれぞれのなすべきことをしていた。家路を急ぐ人々、宴を前にして仲間と談笑しながら意気揚…
2021年1月11日 16. 「帰還」 小説『レイト・サマー』第8章(前編)-あるオートガイネフィリアの物語- 8 老人のボディーガードは無言のまま、施設の玄関まで私を導いた。そして、すぐさま主のもとに帰っていった。 私は玄関に一人取り残された。いつまでもここにいても仕方がなかった。私は外に出ることにした。 自動ドアを出る…
2021年1月11日 15. 「神の意志」 小説『レイト・サマー』第7章(後編)-あるオートガイネフィリアの物語- この場所には、老人と私だけが残された。 この状況から察して、この老人は次に私を殺すに違いなかった。そう考えると全身に緊張感が漲った。体が小刻みに震えているのが自分でも分った。私は、突然に死の淵に投げ出されてしまったの…