15.迷いの日々

まだ肌寒い、ある春の夕暮れ。

飲み会で出会った彼女と初めて食事をします。

 

この前会ったときと違い、

この日の彼女は物静かでした。

意外にも、客以外の男とプライベート出歩くのは

久しぶりのとのことでした。

 

私たちは小さな居酒屋に入り、

とりとめのない身の上話をしました。

 

彼女は水商売の仕事のことや、

別れた夫のこと、愛する息子のことなど、

いろいろなことを聞かせてくれました。

 

話を聞いているうちに、

いつの間にか、私は彼女の生き方に共感していました。

 

店を出て、私たちは夜の街を少し歩きました。

私は思い切って彼女の手を取りました。

彼女も黙って私に手を差し伸べました。

そのときの手の柔らかさを今でも覚えています。

 

こうして彼女とのお付き合いが始まりました。

 

春が深まるにつれて、私たちの仲も少しずつ親密になりました。

 

5月の連休に、私たちは長崎に旅行に行きました。

そこは彼女が生まれ育った思い出の地。

街を歩きながら、彼女はいろんな思い出話をしてくれました。

 

坂だらけの路地裏を、息を切らしながら歩く二人。

気が付けば、お互いの顔には、屈託のない笑顔が溢れていました。

まるで子供時代に戻ったようなひとときでした。

 

しかし、残念ながら、

二人の関係は、この時期がピークでした。

 

もともと彼女は夜の世界の人。

昼間に働く平凡な会社員の私とは

そもそも生活時間が違いました。

彼女とはすれ違いが多くなっていきます。

 

しかし、それは表面的な言い訳に過ぎません。

 

上手くいかなくなった原因はすべて私にありました。

情けない話ですが、私は何一つ男らしい振る舞いが出来ませんでした。

彼女からすると、そんな私について

期待外れだったと思ったに違いありません。

 

「なぜだろう?」

私はこのときから深く悩むようになりました。

「意気地なし」と言えばそれまでですが、

直観的に本質はもっと違うところにあるような気がしました。

「僕は本当に男だろうか?」

この悩みはさらに深まっていくのでした。

クロスドレッサー、自己探求家。 趣味で小説も書いています。 最近は、仏教と現代物理学の関連について研究しています。

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