前回も書きましたが、
その人との出会いは全くの偶然でした。
ある春先の飲み会の二次会。
私は仕事関係の先輩たちと、あるキャバクラにいました。
私は幹事役を仰せつかっており、
飲み会の財布の紐を握っていましたので、
あまり騒ぐこともできず、
帰りの支払のことばかり考えていました。
宴もたけなわ。
先輩たちが酔って店の女の子に悪ふざけをする中、
私はお酒もほどほどにその様子を眺めていました。
ぼんやりしながらも、
私の視線は華やかな女の子たちの方に
流れていました。
その中に、ひときわ明るく振る舞う人がいました。
私は、その表情の中に、必死にお客さんを楽しませようとする
プロ意識のようなものを感じました。
それは、ある意味すがすがしい印象でした。
「あんな人と仲良くなれたら楽しそうだけどな」
そう思って、その様子を遠くから眺めていました。
程なく、二次会も終わり、
無事にお会計を済ませて店を後にしようとしたときのことでした。
「ねえねえ、ちょっと」
誰かが後ろから話しかけて来ました。
振り向くと、さっき気になっていた女の子がいました。
「ちょっといい?」
私は、女の子に導かれるまま、
皆と離れたところに少し身を隠しました。
「ねえ、電話番号教えてくれない?私のも教えるから」
後で聞くと、彼女はずっと私のことが気になっていたようです。
私は、決して街で飲み歩くようなタイプではなかったのですが、
それが、逆に彼女にはとても新鮮だったのだろうと思います。
私たちは携帯の電話番号を交換しました。
そして、後日連絡を取り、デートをすることになりました。
正直にいうと、私は舞い上がっていました。
地味な自分とは不相応に華やかな人と
出会ったのですから。
歳は私より三歳下で、バツイチ子持ちでしたが、
ショートボブの似合う美人でした。
また、祖父がアメリカ人ということで、
英語も上手く、とても格好いい面もありました。
彼女には璃子とはまた違う刺激がありました。
しかし、最初のデートは前日にドタキャンされてしまいます。
「おいおい」と思わず言ってしまいそうでした。
性格は相当自由奔放でした。
内なる女との関係が深まる中で、
突然起きた春の嵐。
この後しばらく、夢と現実の狭間で、
心揺れ動く悩ましい日々を過ごすことになります。