13.璃子

私の内なる女との不思議な関係は徐々に深まっていきました。

といっても、現実には決して彼女に出会うことはできません。

鏡の前で彼女に成りきり、彼女の心の声に耳を傾けることが、

彼女を感じる唯一の方法でした。

 

このころよく聴いていた曲がありました。

その曲には次のような歌詞がありました。

 

「この世にあなたは生まれてきて

ひとつの名前を与えられて

誰に教えられたわけでもなく

記憶の糸を紡ぎだす

 

頭の中に宿るパートナー

過去と想像を記すスパイダー

決して出会うことはないけれど

ともに同じ道歩むよ」

(bird/『スパイダー』より 作詞:bird

 

彼女は、歌にあるように、

まさに「頭の中に宿るパートナー」でした。

 

しかし、彼女は死に瀕していました。

もしかしたら、知らないうちに

私が彼女を殺そうとしていたのかもしれません。

 

私には、彼女を救う義務がありました。

同時に、それが私自身を救うことでもありました。

 

彼女を救うこと―それは彼女のことを

愛で満たすことだと私は考えました。

 

私は鏡の前の彼女を精一杯愛しました。

 

彼女のいたるところを優しく愛撫してあげました。

彼女とともに淫らな声を上げました。

激しく愛した後は、私たちの心は、

いつも安らかさに満ち足りていました。

 

いつしか、彼女に名前がついていました。

その名は璃子。

彼女は私にとってかけがえのない存在となっていました。

 

 

その一方で、この頃の私の心は別のことも考えていました。

あくまでも心的な世界と現実とを区別していました。

いわば、両方の世界を行き来する

器用な二面性を持っていたということもできます。

 

上手くいかないにもかかわらず、現実の結婚にも

まだ未練を残していました。

 

前にもメールのやりとりをしてくれる女性が

現れたことを書きましたが、

彼女とは定期的にメールで連絡を取り合っていました。

しかし、考え方に大きな違いがあり、

いつの間にか関係は途絶えてしまいました。

 

ところが、その後全く偶然という形で

実際にお付き合いする人が私の前に現れました。

図らずも、璃子と彼女との奇妙な「三角関係」が始まるのでした。

クロスドレッサー、自己探求家。 趣味で小説も書いています。 最近は、仏教と現代物理学の関連について研究しています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です