私の内なる女との不思議な関係は徐々に深まっていきました。
といっても、現実には決して彼女に出会うことはできません。
鏡の前で彼女に成りきり、彼女の心の声に耳を傾けることが、
彼女を感じる唯一の方法でした。
このころよく聴いていた曲がありました。
その曲には次のような歌詞がありました。
「この世にあなたは生まれてきて
ひとつの名前を与えられて
誰に教えられたわけでもなく
記憶の糸を紡ぎだす
頭の中に宿るパートナー
過去と想像を記すスパイダー
決して出会うことはないけれど
ともに同じ道歩むよ」
(bird/『スパイダー』より 作詞:bird)
彼女は、歌にあるように、
まさに「頭の中に宿るパートナー」でした。
しかし、彼女は死に瀕していました。
もしかしたら、知らないうちに
私が彼女を殺そうとしていたのかもしれません。
私には、彼女を救う義務がありました。
同時に、それが私自身を救うことでもありました。
彼女を救うこと―それは彼女のことを
愛で満たすことだと私は考えました。
私は鏡の前の彼女を精一杯愛しました。
彼女のいたるところを優しく愛撫してあげました。
彼女とともに淫らな声を上げました。
激しく愛した後は、私たちの心は、
いつも安らかさに満ち足りていました。
いつしか、彼女に名前がついていました。
その名は璃子。
彼女は私にとってかけがえのない存在となっていました。
その一方で、この頃の私の心は別のことも考えていました。
あくまでも心的な世界と現実とを区別していました。
いわば、両方の世界を行き来する
器用な二面性を持っていたということもできます。
上手くいかないにもかかわらず、現実の結婚にも
まだ未練を残していました。
前にもメールのやりとりをしてくれる女性が
現れたことを書きましたが、
彼女とは定期的にメールで連絡を取り合っていました。
しかし、考え方に大きな違いがあり、
いつの間にか関係は途絶えてしまいました。
ところが、その後全く偶然という形で
実際にお付き合いする人が私の前に現れました。
図らずも、璃子と彼女との奇妙な「三角関係」が始まるのでした。