ある日の夜、不思議な夢を見ました。
私は真っ暗闇の中にいました。
でも、不思議と恐怖感はありません。
何か暖かくて柔らかい粘膜のようなものに包まれている感じ。
例えて言うなら、母の子宮の優しい温もりの中で
生まれるその時を待つ胎児になったような気分でした。
そして、次の場面ではある女と裸で抱き合っていました。
顔はよくわからなかったですが、いい女でした。
柔らかい肌に包まれる快感。
あたたかい泥に落ちてゆくような官能的な恋の夢。
こんな感覚は何十年ぶりだろう?と思いました。
ほとんど忘れかけていた感覚。
これまで日々を生きる戦いの中で、
思考、行動共に、常に合理的でなければならないと、
自分を律して来たつもりでした。
しかし、自己抑制がここに来て限界に近づいていたのかもしれません。
自分の中の何かがゆっくりとうごめきだしたかのようでした。
この女の愛にずっと包まれていたい。
私は恍惚感の中にいました。
しかし、それも束の間。
夢ははかなく醒めてしまいました。
現実に引き戻された私は、言いようもない喪失感を感じました。
まるで心が大きな空洞になったような…。
このような気持ちは初めてでした。
そして、私はこう思いました。
「自分はこのまま枯れるように人生を終えてしまう運命にあるのかもしれない。
でも。このまま消えるように死んでしまうのは悲しい。口惜しい。
その前にもう一度、心が融けるようなことをしてみたい。」
これは私の悲願となりました。
その後、私は無意識的に夢の中に出て来た女を
探し求めるようになっていました。
その女は、私の中の女。
きっと、もう一人の自分自身。
これまでいつも私と共にあった存在。
新たな自分がこの世界に現れる日が近づいていたのでした。