前回、夢に出てきた女のことを書きましたが、
彼女が再び現れたのでした。
眠りの淵は冥府の入り口。
ある夜、私は夢とも現実ともいいがたいところに私は居ました。
彼女は、月の光に白い顔を照らされながら、
伏し目がちに私に告げました。
『さびしかった』と。『早く気付いてほしかった』と。
きっとここは私たちだけの世界。
そして、きっと、彼女は私。私は彼女。
私は、この女に寄り添うのは自分しかいない。
彼女を救うことが、私自身を救うことに繋がると悟るのでした。
前にもお話したとおり、
「潜在意識の世界では真実と嘘の区別はない」と考えていました。
たとえ、嘘の記憶でも、時が経てば真実と変わらなくなるはず。
現実に彼女に寄り添うには、
彼女に成りきり、自分を慈しむことだと考えました。
早速、私は、女性に成るための準備をすることにしました。
メイク道具や衣装などは全部インターネットで購入しました。
最近は通販で必要なものはすべて揃えることができるので便利です。
また、体毛もきれいに処理しました。
太かった眉も女性らしくほっそりとさせました。
YouTubeを見て、化粧の仕方も勉強しました。
そして、ある秋の夜中、私は「計画」を実行します。
実のところ、女装するのは人生で初めてではありませんでした。
過去に数回、人に化粧をしてもらったことがありました。
しかし、自らの手で女装するのは、この時が初めてでした。
自分で理想のキャラクターをモデリングするような感覚。
いわば、自己の創造です。
メイクを終え、下着を身に着けて、部屋の灯りを暗くしました。
鏡の向こうには、間接照明に照らされた女が脚を組んでたたずんでいました。
私はその妖艶さに驚きました。
「これが僕?」
戸惑いの中に、嬉しさがじんわりとこみ上げてきました。
それは、私の心の中で、重たい歯車がようやく動き出した瞬間でもありました。
このときから、彼女と私の物語が始まるのでした。